だから俺にしとけって
「ごめん!!俺彼女に本気なんだ!だから別れてくれ!!」
「えー……」
また浮気されるとは……っていうか今まで交際してきた人、浮気性、ヒモ、ギャンブラーとダメ男のオンパレード、昔からこういう事が多すぎて涙も出なくなってしまった……私は何でいつもこうなんだろう。
今度こそはって思ってたのになあ…こんな事があっても朝が来て、会社に向かわないといけないのだから世知辛い!なんて私の叫びなんて知りもしない上司が話しかけてきた。
「さーん、今月のノルマ忘れてないですか?」
「わ忘れてないですよーあはは……」
やばい、忘れてた!このままだとノルマをこなせないまま今月が終わってしまう!それだけは避けなければ!
私はセキュリティ会社で営業をしている、地域密着型を売りに中小企業や個人宅への売り込みが多く、なんとかやってきた会社だ。
「外回り行ってきまーす」
「契約取れるまで帰ってこなくていーですからねー」
し、しんらつぅ、焦った私は昼休み返上で走り回り、だからと言って顧客獲得には繋がらず、もう夕方になっていた。仕方がない、会社に戻ってもやることないし今日はこのまま帰るかと歩いていると
「へーこんなところにバイク屋さん出来てたんだ」
案外、社会人になると昔歩いていた場所の変化に鈍くなっていたみたいだ。
お店をぼーっと眺めていると店主であろう男性が出てきた。同世代かな?
「うちの店に何か用でも?」
私は慌てて謝りながら
「あ、すいません、このお店最近できたんですか?綺麗ですね」
「ああ、そうなんだよ、いい場所無ぇかなって探してようやくここまできたんだ」
これってもしかしてチャンスなのでは?まだ開業して間もないならここで上手く話せば契約取り付けれるかもしれないし腕の見せ所じゃない?
「あの私□□セキュリティで営業をしています、こちらのお店ってセキュリティ対策なさっていますでしょうか?もし宜しければ一度ご相談させて頂いてもー」
「ん?あー確かにそこの対策してねーんだよな、まあ俺一人でやってる店だし、そこまで金かけらんねぇからさ」
「うちでは個人様向けのリーズナブルかつ手厚いサポートがあるプランがありましてそちらであれば月々の負担も少なくご利用できますよ」
「うーん、でもなあ」
「実は私、営業としてまだまだ未熟でして……是非お客様の意見もお聞かせ頂ければなと、もちろんサービスのご案内だけでしたら料金もかかりませんので! お願いします!」
「……じゃあとりあえず話だけ聞くわ」
やったぁ! これは大成功かもしれない!
「はい!申し遅れました、私、と申します。お話聞いて損はさせません!」
張りきった声を出していると店主がこっちに振り返りじっと私を見てきた。
「……あのさ、お前どっかで見たことあるような気がするんだけど……」
「え? そうですか?」
営業トークに必死過ぎてあまり顔を見ていなかった、この店主……よく見ると結構かっこよくない? 背も高いし、ちょっとタイプかも……はっ! お客様相手に何考えてるの! ダメダメ! 自分の惚れっぽさに辟易してしまう。
「……まあ、いいや、とりあえず中に入れよ」
「はい!失礼いたしますー」
と声をかけて入っていく。店内にはバイクが数台置いてあり、バイクに詳しくない私でもとても高価な物だと分かる。
「わぁ…すごい」
「そうだろ? これとかもうなかなか手に入らないからさ」
「こんなに高価なもの置いているのに対策が手薄だなんて……本当に大丈夫なんですか?」
「まあ、防犯グッズ適当に置いて施錠しっかりしとけば何とかなるって思ってるんだけどな、ここら辺の地域の奴らも俺の事知ってるだろうし」
「そんな適当な、というより知っているって?どういう事ですか?」
「あー、まあ俺はここら辺の不良達をまとめていた時期があって…というより覚えてねーか俺の事」
「……あ」
不良をまとめていた男なんて私の記憶では一人しかいない。
「も、申し訳ございませんが、お名前の方を伺ってもよろしいですか?」
「佐野真一郎だよ」
やっぱりーー!! なんか髪型のせい? かっこよくなってない??
「ひどいよな、、告白した相手の顔忘れるなんてさ」
「そっちこそ最初覚えてなさそーだったよね!? てか、こ、告白……??」
「化粧も髪型も違うからわかんなかったんだよ、つか告ったのマジで覚えてねーのか?」
必死に記憶を呼び起こす佐野と二人で会話したことってそんなに無かったような、うーん
「……もしかして『俺で手を打たないか』ってやつ?」
「それだよ!」
「え、あれ冗談じゃなかったの?」
「遊びであんな事言わねーよ、あの時上手くかわしたよな、」
「いや、私まだ相手と別れてなかったし、それに佐野って色んな女の子に盛大な告白しまくってたし、なのに私にはあんな言い方……」
佐野は好きな女の子に告白する時、いつも薔薇の花束を持ってたり、懸垂しながら大声で好きだー! って叫んでいたり、とにかく派手で有名だった、そしていつもフラれていた。
「お前がいつも変な男に引っかかっては泣いたりしてさ、なんつーのシンパシー感じてたっていうか……」
「えぇー、いつもフラれてばっかりの佐野に同情されてたの私ってば」
「そういうところが好きになったんだよ」
私を好きな理由はよくわからないけど告白は本当みたい…
「冗談とばっかし…っていうかあんな言い方じゃときめかないっていうか」
何より不良だったし、
「じゃあどんなのがときめくんだよ」
「そりゃあ、その」
告白してばっかりでされたことのない私はいざ理想の告白って言われると口ごもってしまった。
「……お前今彼氏いんの?」
「今はいないけど……」
「なら問題ねーじゃん、付き合おうぜ」
え、急すぎるでしょ? 距離の詰め方怖っ! 少し後ずさろうとしたが足をかくっと挫かせてしまった。
「あっ」
転びそうになったところを佐野に抱き止められる。
「あ、ありがとう」
うっ顔の距離が近い…慌てて離れようとするが佐野が私の右足を見て、
「足、捻ったんだろ? ちょっと見せろ」
佐野がしゃがみ込み私の足首を触った。
「痛っ」
「捻挫はしてねーけど靴擦れしてるな、ちゃんと処置してやるから座って待ってな」
「え、うん……」
私がソファーに座って待っている間に佐野は棚の中から救急箱を取り出してきた。
「ほら靴脱げよ」
手当ぐらい自分でもできるんだけどなと思いつつ佐野に促されるまま靴を脱いだ、片ヒザをついて私の前にいる佐野の方に足を向ける。
「手当してもらってごめんね」
「気にすんなよ、元はと言えば俺が悪いし」
「靴擦れは私が歩きすぎたせいだから佐野のせいじゃないよ」
「そうだろーけど、結構頑張ってんだな、そういう所が俺は好きなんだわ」
「う……うん、ありがと」
やばいやばい、目の奥がじんわりと熱くなってきた、仕事で褒められ慣れてないせいなのか、昨日彼氏に振られたばっかりだからなのか、遅れて涙が出てきてしまう。
「え!?ちょ、そんなに痛かったのか?」
佐野が心配そうに見つめてくる。
「……痛いっすごく痛いの、ずっとうまく行かないことばっかりで……どうしたらいいかわかんなくて」
「お前はいつも張り切りすぎなんだよ少しくらい肩の力抜いてもいいんじゃねーの」
涙が溢れ出して止まらない、情けない、同級生を前にこんなに泣いてしまうなんて、早く止まってほしいのに涙が次々に溢れてしまう。
「いつも裏切られて、でも今回こそは本気で運命っていつも思うの、だけどいつも違うの、いつも同じなの、もう嫌なの……」
友達に男運悪い事とか馬鹿にされても笑ってごまかしてた、でも本当はいつも絶望していたの、どうして私だけ上手くいかないのって。
「……お前の気持ちわかるよ、俺だっていつも告白する女、全員運命だって思ってた」
「そうだったの?」
いつも無計画に告白してると思ってたからつい、驚いてしまった。
「まあ、フラれてんだけどな」
佐野は笑いながらそっと私の涙を指で拭ってくれた。
「はさ、最初っから俺を選べば良かったんだよ」
「え?」
「俺を彼氏にしてみろって、絶対後悔させねーから」
手当された足を佐野から離そうとしたが、きゅっと佐野の手が掴んできた。
「やだ、私彼氏と別れたばっかりなのに」
そんな簡単に乗り換えるみたいに……佐野がこちらを覗き込むように見つめる、し、視線が熱い、やばいこんなに言われたら
「佐野、私惚れっぽいんだよ?すぐ好きになって佐野だって……」
「嫌わねーし、むしろ嬉しいよ、もっと惚れてくれて」
もう駄目だ、断る理由なんてどこにもなくて私のお手軽な心は完全に傾いていた。
「佐野のこと、すごく好きになっても知らないよ、私重いんだから」
「上等だよ、より俺の方が重いから」
佐野が嬉しそうに笑い抱きしめてくれた。
棚からぼた餅とはまさにこのことだろうか、顧客獲得と彼氏を同時に手に入れてしまった、どうかこの恋が最後でありますように、と佐野の背中を確かめるようにぎゅっと抱きしめ願った。
「で、佐野はこのプラン入ってくれるんでしょ?」
「押し売りかよ…まあいいけど」
***
授業をサボるつもりで屋上へ向かい、人気のない階段を昇る、そこには一人すすり泣いている女子がいた。
「?」
「ん?あー佐野か……どうしたの?」
「ただのサボり、は何で泣いてるんだよ?」
「彼氏が他の女の子とデートしてたって……もう駄目かも」
あーって普通に可愛いのに男運悪いのでちょっと有名なんだよな……、
「ほら元気出せって、俺なんかフラれっぱなしなんだからさ」
の肩をポンポンと軽く叩き慰める。
「佐野は優しいね」
ふっと泣きはらした顔で笑う、なんだか強がっている様に見えて仕方がない。
「俺で手を打ってみるか?」
つい言ってしまった、自分でもびっくりだ、さっきの表情だけでこんなに心を動かされてしまった。
「佐野はやっぱり良いやつだね、でも大丈夫だから!私運命の人絶対ちゃんと見つけるからね!ありがとう!」
は笑いながら俺に答えた、あー、これはかわされたってやつか?またフラれたのか俺は……。
「じゃあその運命の人がいなかったら俺にしとけよ」
「ふふっマジで良い人過ぎだよ!佐野にも見つかるから!私が保証する!」
あいつは笑いながら教室へ向かい、俺はそのまま階段に腰掛けて空を見上げる。
「の保証なんか当てになんねーって」
あれから高校を卒業してすっかりの事なんて過去の思い出になっていたはずだった。
「私、と申します。お話聞いて損はさせません!」
大人っぽくなっていて最初は気づかなかったが話し方とかしぐさがあの頃のままで一気にあの時の感情が蘇ってくる。
運命が本当にあるなら今じゃないかって俺は思いたい、だから絶対に離さないって決めた。