テストと公園と猫

、勉強教えてくれ!!」

場地くんが図書室に入るなり、私に頼んできた。
ちなみに期末試験まであと1週間だ。

「え、良いけど、松野くんとか、クラスの人に教えてもらうんじゃなかったの?」
「クラスの奴らの言ってることが全然わかんねえんだよ……」
「あー細かい所とかいちいち聞くの大変だよね」

私はクラスが違うから詳しいことがわからないけど、たぶん今回の範囲教えたくらいじゃ理解するのになかなか難しいのかもしれない……。

「わかった、じゃあ場地くんのクラスのテスト勉強会に顔出してみるよ、どうせ松野くんも居座ってるでしょ?」
「おう、マジで助かる!」

別クラスの人間がまた一人増えても問題無いはず。
そして放課後になり、場地くんの教室に行くと案の定松野くんがいた。

「おうちゃん、HR長かったな!」
「……一応言っとくけど、松野くんは私と同じクラスだよ?」
「わりぃわりぃ」
松野くんが片手でごめんなさいのポーズをしながら適当にこたえる、絶対反省してないやつだ……。
「まあいいけどさー」

場地くんの方に目をやると机にかじりついていた。
その周りをクラスメイト達が教科書や参考書を片手に持って囲みながらブツブツと教えている。
思っていたより真剣な空気に話しかけていいのか戸惑っていると

「あ、さんだ!勉強会来てくれたんだ」

クラスの子達がぱっと顔を上げ、私を見るなりなんだかホッとしたような顔をしていた。

「うん、場地くんテスト勉強大変って聞いたから」
「よかった……俺達だけじゃ場地くんわからなかったんだよねぇ」

みんな疲れた顔をしているし場地くんはブツブツと数学の公式を唱えている、大丈夫かな。

「たしかさん学年テストの順位よかったよね? 頭良い人が来たから安心した……」
「いや、大したことない方だけどね……」
学年順位10位以内とか死守してたらもうちょっと自信持てるんだけど……ちょっと恐縮してしまう。

***

「こっちの先生と結構言ってること違うね……」

私がもらったプリントや板書、教科書の重要事項の線引き等を場地くんのクラスの子達と照らし合わせる。
テストは一緒でも教える先生が違う人だとそれなりにズレも生まれている。

ぜんぶ覚えようと意気込むのも良いが、もうテストまで日にちが無い、出来るだけ覚えるところ絞って点数を取らせてあげたい。

「数学の先生とか難しく言いすぎて私たちのクラス、塾行ってないと結構キツイよ……」

一人の子が言うとクラスの子達がうんうんと首を縦に振っていた。

「なるほどね、よし!場地くん!先生達を驚かせてやろう!!」
「お、おう!」
「おー、ちゃん珍しくやる気出してる」
さんて案外熱血ねえ……」

松野くん達がなま温かい目をしていたような気がするが……無視しておこう。

「あー疲れたぁ……」

私がぐったりと机に突っ伏する、

「お疲れーまた明日ー」

一緒に勉強をしていた人たちが手を振りながら帰っていく。
気が付くと下校時刻が近くなりを教室で勉強をしていた人もパタパタと帰ってしまった、私達も帰る準備を始める。

「とにかくまとめたところ覚えて、また明日簡単なテスト作って来るね」

勉強を教えると引き受けたのだからしっかりやるしかない。

「おう、サンキューな!なんか久しぶりに頭使った気ィするわ」
「それはよかった……」
「場地さん、ちゃんがテスト本番までいてくれて安心っスね」
なぜか松野くんが誇らしげに言う。

「おう、頼むわ!」
「お、おーう」

拳をあげながら覇気のない返事をした。
そんな私を見たせいか場地くんが

「わりーな、礼はちゃんとすっからよ」
「え、お礼?別に無くてもいーよ」
「クラスの奴らには文化祭で返しただろ 、には何もしてやってねぇからな」
「あぁ、あの面白いコスプレがお礼だったんだね……」
「まぁ、まだなんも考えてねーけど、楽しみにしとけって」

場地くんが笑顔で言ってくれちゃうとなんだか断れない。

「じゃあ楽しみにしてる」

お礼なんて、場地くんは結構律儀というか、義理堅い人なんだなと知れてちょっと嬉しくなる。
それからテストまで松野くん達に手伝って貰いながらもなんとかテスト勉強を終えた。



そして今日は結果が返ってくる日だ。

「場地くん、自信あるって言ってたけど大丈夫かな?」
「どうだろうな、赤点さえ回避できてりゃ俺はいーけどな」

松野くんが私の隣で答える。

「そっか、そうだよね……」

テストの結果を貰える時、いつも緊張するけど今回は人に教えたという責任感もあって余計ドキドキしてしまう。

先生から返された自分のテスト結果を見る。

「え、点数上がってる……」

教えると自分も成績上がるなんて話、あんまり信じてなかったけどこれは嬉しいなぁ。

そんな事を休み時間に呑気に思っていると廊下が少し騒がしい……。
なんだろうと教室の扉を開けると場地くんと松野くんがいる、場地くんが私を見るなりズンズンと近づいてきた。

!お前の言うとおりにやったら点数上がったぞ!!見ろよ!!」

バッと全科目の答案用紙を出してくれたので目を通す。
どの科目も赤点は取っていない……それに国語、社会は平均点に届きそうな点数だ。

「場地さんがこんなにいい点数取るなんて奇跡っス」
「なぁ千冬ぅこれって俺凄いか?」
「めっちゃすげーッス!!」

そうやって2人ははしゃいでいた。

「……よかった、私の教え方で良かったのか不安だったから……場地くん!ホント凄いよ!」

ホッとしてつい私は涙ぐんでしまう。

教室の窓から見てた人たちが

さん頑張って教えてたもんねー」

なんて暖かな目で見られていた……なんだかちょっと恥ずかしい。
場地くんも照れくさそうに頭を搔いていた。

「なんか照れくせーな……」
「でも嬉しいよ、あっそうだ!」
「なんだ?」

私は手のひらをぱっと広げ場地くんの前に差し出す。
場地君は私の行動の意味が分からず首を傾げた。

「ん?どうした?」
「お礼!なんかしてくれるって言ってたじゃん!」
「あーあれか!」

ちゃん、そういうのしっかり覚えてるよなー……」

松野くんがあきれた顔で言う。

「べ、別にいーでしょ、割と楽しみだったし」

何もいらないなんて言っておきながら、お礼があると知ってからは楽しみにしていた、我ながら現金である。

はなんか欲しーもんとかあんのか?」
「別になんでもいいよ!ほら、肉まんとかクレープとか!」
「食いもんばっかじゃねーか」

場地くんが突っ込むと続けて松野くんも

「ってかそれいつもと変わんなくねーか」

って言ってくる、確かに放課後の買い食いなんて普通過ぎるのか。

「じゃあどっか遊びに行く?」
「あ?金ねーしなぁ」

そう言いながらも場地くんはなんだかんだ考えてくれている。

「……じゃあ、放課後時間あるか?ちょっと付き合ってもらいてぇんだけど」
「いいよ!何するの?」
「それはそん時の楽しみに取っとけ」

そしてその日の放課後、私は場地くんと一緒に学校を出た。

「バイク乗らないの?」
「乗らねーよ、未成年のお前乗せんのはあぶねーだろ」
「場地君だって未成年だよ?」
「俺はいーんだよ」

一体どういう倫理観をしているんだろう?
っていうかバイクに乗って遠出とかあこがれてたんだけどなあ……。

「どこ行くの?」
「まぁ黙ってついてこいって」

しばらく歩くと公園に着いた。

「今日はここだな」
「公園?」

遊具で遊ぶのか?小学生以来なんだけど……そんな見当はずれの事をわたしは考えていた。

迷わず場地くんは茂みの中に入っていく、その後ろを着いていくとそこには、
「にゃーん」という声と共に猫がいた。
一匹、いや次々と出てきて5匹ほどいる状態に。

「え!?なにこれすごい、猫がこんなに」
わなわなと興奮気味に場地くんの方に振り向くと。

「おう、あとこれ」

場地くんは猫じゃらしの草を私に差し出す。

「いつの間に!?」
「そこにたくさん生えてんだろ?あ、ちゃんと上の方に生えてるやつ取って来てやったからよ」

そう言って誇らしげにしている姿を見るとつい笑ってしまった。

「ふふっありがとうね」

私は近くにいた猫を抱き上げ撫でると猫はゴロゴロ喉を鳴らした。

も猫好きだろ?」
「うん!大好き!うちは犬が1匹いるんだけどさ、猫も好き~」

ふと視線を横にすると場地君はしゃがみ込みながら私をじっと見ていた。

「どうしたの?」

場地くんにじっと見られるとなんだか少し緊張する。

「いや、楽しそうだなって、結構気に入ってくれたんだな」
「そりゃ楽しいよ~ってか場地くんのまわり猫いっぱいいるね」

場地くんの周辺にはさっきの猫からまた増えて囲まれている。
場地くんは頭をかきながら照れたように笑う。

「あーなんつうか昔っから動物よってくんだよな」
「いいなー楽しそう」

なんていうか、場地くんも楽しそうだけど、まわりの猫たちも場地くんに撫でられると気持ちよさそうで羨ましい。

「なぁ
「ん?」
「俺、お前のおかげでテストできたわ、ありがとな」
「そんなことないよ、頑張ったのは場地くんだし、それに教え方だって、もっと上手い人いると思うし……」

実際、私の勉強方法なんてただの暗記とかだからなぁ……。

「んなことねぇよ、お前いなきゃあんなに頑張れなかったしな」

場地くんが二カッと笑顔で言ってくれる。建前のないその言動に胸があったかくなる。

「そっか、それならよかった」

私もつられて笑う。

「ありがとね場地君、私、テスト終わったばっかりなのに、お礼が欲しいだなんてわがままに付き合ってもらって……でもこんな楽しいお返し来ると思わなかった」

程よい気温と猫ちゃんのふわふわの毛並みを堪能しながら話しをつづける。

「礼ぐらいさせろ、こんなんだったらいつでも付き合うぜ?」
「ありがと、場地くんは優しいね」
「別に優しかねーよ」

少し照れてる姿が面白くて私はついにやけてしまう。

「……つーかは俺らとこうやってつるんだりしてんの、他の奴らになんか言われたりしねーか?」
「え、場地くん、学校じゃガリ勉スタイルだから、みんな気にしてないでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどよ……」

確かに場地くんがガリ勉スタイルで過ごしていても、先輩や先生にはバレてるし、噂したりする人もいるだろうけど……。

「私は場地くんと会ってからの方が楽しいからなぁ」

ぽつりと言葉が出てしまう、そういうと場地くんはそっぽを向く。

「ほんっと、お前は無自覚にそういう事言いやがんのな」
「なに?褒めてくれてるの?」
「褒めてねーよバーカ」
「プッ、小学生みたいな悪口」
「うっせ、そろそろ帰るぞ」

そう言って場地くんは立ち上がる。

「うん、ところで松野くんは?」
「他の猫と一緒にいたらペケJが嫉妬するだろうからって帰ってた」
「松野くんはペケJ大好きだね」
「またペケJにも会わせてやるよ」

私の前を歩く場地くんの背中を見つめながら、こんな日々が続いてほしいと願い、公園を後にした。


おまけ(場地さんと千冬の会話)

と猫見に公園行くけど千冬も来るか?」
「……!!場地さん、俺はそんなデートを邪魔するような無粋な真似はしないッス!」
「いや、ただ猫見るだけだし、つーかデートじゃねーよ」
「俺は大事なペケJいるんで!二人で楽しんできてください!二人で!」
「……てめーの思ってるようなもんじゃねぇからな?」

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