デートの話

~あと、なんか足りねーもんある?」
「もう大丈夫かな、早くうち戻ろう」

11月になり肌寒さが感じられる頃、私は一虎君と家のお店の備品調達をしていた。

「っていうかおまえんちの店の手伝いってさ、最初は忙しいもんかと思ってたのにすげえのんびりしてるよな」
「そう?まあ、私ら中学生だし、お手伝い程度しかさせてもらえないっていうかね」

一虎君は少し考える素振りを見せて言った。

「じゃあさ、俺が中学卒業したら正式に雇ってくれよ」

その言葉に私は驚いた、だってそれはかなりうちの家の事を気に入ってくれているという事だ。

「いや、嬉しいけど高校は行こうよ、圭介より勉強できるのにもったいないし、学年違うけど出来たら皆一緒の学校行きたいし」

圭介が相当頑張らないといけないが…そう言うと彼は嬉しそうな顔をした。

「したらさ、そん時はバイトでよろしくな?」
「当然じゃん」

わたしは一虎君に肩で返事するようにぶつけた。

「抽選会やってまーす!」

声のする方を向くと商店街のおじちゃんが大声で呼びかけていた、どうやらガラポンのようだ。

「あれやってみようぜ」
「うん!いいね!」

私達はおじちゃんの元へ向かった。抽選券を渡し一虎君ががらがらと回すと出てきた玉の色は赤だった。

「おめでとうございます、2等賞です!」

おじちゃんは大袈裟に手を広げながら言った、周りにいた人達も拍手をしてくれた。

「水族館のペアチケット~カップルさんとかには喜ばれる商品ですよ」
それを聞いて一虎君は
「ええー俺あのシャツがよかったなあ、…まあいいやお前にやるよ」
「え、いらないの?」
「場地とがいけばいいじゃん、付き合ってんじゃないのかよ?」

確かに一応付き合ってはいるんだけども。

「お前らがデートしたとか全く聞かねえからさ、ちょうどいいじゃん」
「いや、確かに常に金欠だからデートと言うデート……あれ? ほんとうにしてないかも?」

稀咲くんの一件からすぐに中間テストで私は圭介と千冬に勉強を必死に教えていたし…圭介と二人でいる事が少ない、それはそれでいいかなって思っていたんだけど。

「別に無理にとは言わねえけどさ、俺的には2人で行って欲しいかなあなんて思ってるだけ」

その言葉にじんわりと胸があったかくなる。

「いいの? 一虎君が当てたのに」
「こういうのは貰っとけよ、おれはいつも世話になってるしたまには返させろよ」
「あ、ありがとう~」

こうして私は水族館のペアチケットをもらったのだ。

*****

「――なんてことがありまして、誘おうと思ってはいるんだけど、うまく言えなくて時間が過ぎていくんだ…」

教室で私は机に突っ伏していたその向かいに千冬は漫画を読みながら話を聞いてくれている。

「なるほどな、場地さんをデートに誘うのに緊張してんだな」
「緊張、はぁ…私なんで緊張してんだろう?今更緊張とかおかしすぎない?」
「おかしくねえよ、ほらこれ見てみろよ」
「え、少女漫画?」

千冬は漫画のワンシーンを開けて見せてくれた、そこにはヒロインの女の子が彼氏をデートに誘う事に戸惑っている姿が描かれていた。

「なるほど、付き合ってからも女の子は不安なんだね」
「お前なに当たり前な事言ってんだよ、好きな人と付き合えたらそうなるもんだろ、しかもお前は場地さん相手だぞ!ほらどの漫画もそう描いてるしそこからの展開だってな…」

千冬は少女漫画から見る女の子の気持ちを語ってくれた。

「つまり、今のちゃんみたいになるわけだ」
「えぇーなんかこの甘酸っぱい少女漫画と一緒にされると、なんだか思い悩むこと自体恥ずかしくなってきた…なんかありがとう」
「はあ?お前少女漫画馬鹿にすんじゃねえぞ、ヒロインの人生がここにはあるんだよ、おい聞いてんのかよ」

千冬の話は続くが私は圭介をどうやって誘うか考えていた。


*****


いつも通り第二図書室で圭介の事を待っていた、千冬は
「さっさと誘えよ!」
と言って帰ってしまった。うーんと伸びをしていると

「よお」

声をかけられ振り返ると圭介がいた、いつもなら扉の開く音で気づくはずなのに考えすぎて気づかなかった。

「あっお、遅いじゃん」
「そうか?いつもこんなかんじだろ?」

つい動揺してしまった、圭介の顔を見ると心拍数が上がる、あくまで自然に言わないと。

「あのね、水族館のチケットくじ引きで当たってね、貰ったんだけどね…一緒に行きたいんだけど、駄目かな?」

あーなんか言い方変かも、もっと普通に言えばよかったのになんてくるくる考えてしまう。

「なんで言いにくそうなんだよ、行くに決まってんだろ」
「あれ?いいの!?」
「はあ、断る理由ねえだろ?」

圭介は呆れたように笑う。

「そっかあ、じゃあ今週の日曜日でもいい?」
「わかった日曜な、てかくじ引き当てたのすげえな」
「一虎君が当ててくれたの! 俺はいらないからお前ら行って来いよって」
「へえ、あいつが譲ったんだな」

圭介がクシャっとした笑顔を見せた、その顔を見ただけでなんかもう、きゅっと胸が締め付けられてしまう。

当日、私はいつもより丁寧に身支度をした、今更よく見られたいだなんて浅はかだなあ。 待ち合わせ場所に向かうと既に圭介が立っていた、私服姿なんていつも見ているはずなのにすごくカッコ良く見えてしまいそわそわしてしまう。

「思ったより早いね、いつも時間ギリギリなタイプなのに」
「たまには早めに来てやるかと思っただけだ」

楽しみにしてくれていたのかな?なんて思ってしまう。

「あー早くいくぞ、水族館って久々だわ」
「私も、最後に行ったの何年前だったかなあ」

っていうか圭介と電車に乗ることすら新鮮だ、彼は私の隣で窓の外を見つめていた。
水族館に着く、受付の人にチケットを渡すと係りの人が入場券を渡してくれる、私達はそれを受け取って中へと入っていく。

「わー綺麗!魚がいっぱい泳いでる!」
「おう、イワシの群れうまそうだよなあ」
「えー、何?今から取って食べるの?」
「食うかよ!言ってみただけだ」
「まあ、新鮮ではあるだろうね」

なんてくだらない会話をする。奥に進んでいくとクラゲのエリアだ、

「……うん、かわいいよね」「……そうだな」

……なんか、照明がいい感じの雰囲気を演出している、というか演出し過ぎてないか? 気恥ずかしい空気が流れる。

「…お前、なんかまぶた光ってるな、化粧か?」
「え、うんアイシャドウ塗ってみたんだけど、おかしいかな?」

ちょっとでも良く見られたくて頑張ってメイクしたんだけど、圭介はじっと私の目元を見ていた、こうやって見られると目を逸らしたくなる、でも逸らしたらなんか負けた気がするから見返す、しばらくどっちも黙ったままだ。

「…まあ、似合ってんじゃねーの、俺はよくわかんねーけど」

プイッと顔を背けてしまった、まあ嫌ではない感じかな? どうなんだろうか、新しい服とか着ても何も言ってくれなかったし少し不安になってくる…いや、圭介は言わないか、それが普通なのに、千冬の少女漫画に感化されすぎているかもしれない。
そんな事を悶々と考えながらも館内をまわっていく。

「....あ、ペンギンの餌やりタイムが始まっちゃう」
「まじか、おいちょっと待てよ…イルカショーと被ってねえか」
「うそ!どうしよう…」

イルカ、ペンギン、どっちも捨てがたい、まあイルカの方がショーとしては規模がでかいし何より圭介はイルカの方が好きだと思う。

「圭介はイルカの方が好きだよね!イルカ行こう」
「ちげえ、俺はどっちも好きだ!ほらいくぞ!」
「あー待ってえ」

で作戦としてはペンギンの餌やりタイムを少し見てから、イルカのショーに行く、これで完璧だ。ペンギンの餌やりを見る、はー、かわいいなあ、名残惜しいが急いでイルカショーが行われる会場へと向かう、結構混んでいたがなんとか間に合った。

「よかった!もう無理かと」
「俺らやればできんだな!」
「ってか私達必死過ぎない?」

顔を合わせて笑い合った、それからは楽しくイルカショーを見た。

「楽しかったね!」
「おぅ、久しぶりに見たけどやっぱりすげえな」

最初のぎこちなさなんて忘れて思ったより私たちははしゃぎ楽しんだ、時間は過ぎて館内は少しずつ人が減っていく。

「よし帰るか」
「う、うん」

最後に出口までに伸びている大きな水槽を眺めながらゆっくり歩く、いつの間にか手をつないでくれていた、はぐれない様にってことなんだろうけど、それが嬉しく感じる。

圭介は水槽を見つめながら私に話しかけた。

「……あのさ、
「なに?」
「お前さ、俺の事いつから好きだったんだ?」
「えっと、なんか恥ずかしいなあ…前に話す度に好きになったって言ったけど…」
「けど?」

確かに出会ってから話す度に圭介の事を知り、好きになっていった、でも

「最初に会ったころからかもね」
「いきなり顔色悪くなって図書室から飛び出した時かよ、俺よっぽど嫌われてんのかと思ったわ」

あの時圭介から見たら私はだいぶおかしな女だっただろうなあ。

「あーそれはごめん、いやほら私、圭介が死んじゃう未来見ちゃってそれでね…」

あの未来は回避出来ただろうけど、それでもこの話を圭介に言うのはあんまり気分良くないだろうし、ためらってしまう。

「そっか、あん時なんだな、ならお前が顔色悪くて飛び出したのも納得できるわ」

やだなあ、こんな話重苦しくて申し訳ない…。

「じゃなくてだなあ、だからそれが何で俺を好きになるんだよ! 好きになる所あるか?」
「あるよ、 大ありだよ!だって圭介誰かを守ってたから、こんなかっこいい人いないって思ったの」

そういうと圭介の顔が真っ赤に染まった。

「前から思ってたけど、お前って急に素直になりすぎじゃねえのか!?」
「あの、だってこれは尋問誘導というか…って圭介の方はいつから私の事好きになってくれたの?」

もしかして私の事そんなに好きじゃないのかも、なんて不安に思いながら聞く。

「…俺も初めてあった時からだな」
「え、そうなの?そんな感じしなかったけどなあ」
「まあ、俺も訳わかんねーけどなんか気になるって思ってたつーか、あん時お前泣いてたろ?」

ああ、涙をこらえてたのに全然ばれてたんだな。

「うん、泣いてたかな」
「あの顔が俺はなんか忘れられなくて、ずっと覚えてんだよなあ」
「そっか……」

圭介が私の頬を両手で挟むように包む、鼓動が早くなる。

「俺の事を思って泣いてくれてたんだな、ごめんな、辛いところ見せたな」

この人はこんな話の事でも自分より私の事を心配する、そんな彼の優しさが痛いぐらい私に突き刺さり、そしてどんどん惹かれていく。

「私が勝手に泣いただけ、それだけなんだよ」
「そうかよ」

おでこがぶつかる距離まで近づく、

「……キスしていいか」
「…うん」

唇が触れ、温かく優しい感触に愛おしさが溢れてくる、目をゆっくりと開ける、彼との距離が近くてなんだか…

ハッと気づく

「あっ圭介髪の毛いつもと違うじゃん、ワックスつけてる!だからかあ、なんかいつもよりカッコいいなあって思ってたんだよねえ」
「はあ!?今の雰囲気でそれかよ!雰囲気ぶち壊しだぞ!……いや、まあ俺もお前の今日の恰好とか、悪くねえなって思ってたけどよ」
「えへへ、ありがとう!ってか水族館でキスとか人に見られてない?」
「ここら辺カップルだらけだし別に俺らの事なんて見てねーよ」

そう言ってもう一度キスをした。
カフェでご飯を食べたこととか帰りの電車とか、そんなのもう思い出せないくらいキスは私にとって衝撃的で、帰宅後に今日のことを反芻しては自分の部屋の枕に突っ伏して足をじたばたさせてしまった。
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